デザイン思考6 STEP2「問題定義」

【情報を集約し正しい問いを導き出す】
共感のステージよって集められた情報を理解し、顧客が真に解決したい問題は何かを明らかにするのが問題定義です。共感が拡散のステージだとすれば問題定義は集約です。幅広く得た情報をカテゴライズし、分析し、顧客が気づいていないニーズに辿り着くことが目的です。

そのために重要なことが、「正しい問いは何か?」にフォーカスすることです。例えば、宝酒造の「澪(みお)」のエピソードが興味深いです。若者の日本酒離れが進む中、20代から30代の男女がほんのり甘い低アルコールのチューハイを好んで飲んでいることに目を向けて、そのニーズにマッチした商品を開発しました。それが「澪(みお)」です。

もし開発者が「なぜ若者は日本酒を飲まないのか?」と問いかけていたらこの商品は生まれなかったかもしれません。「若者は今、どんなお酒を好んで飲んでいるのか?」に真摯に向き合い日本酒の方を変えてしまったのですから、とても大胆なイノベーションだったと言えます。

【問題の枠組みを捉えなおす】
問題定義のポイントは、「問題の枠組みを捉えなおす」ことです。

「ハーバード・ビジネス・スクール教授のセオドア・レビットは、「人々は4分の1インチ径のドリルが買いたいのではない。4分の1インチ径の穴を開けたいのだ!」と述べた。」(引用:クリエイティブマインドセットより)

穴を開ける方法はドリルだけではありません。更に「なぜ穴を開けなければならないのか?」を問えば、その穴さえ不要になるかもしれません。正しく問題を定義することで、その解決方法はより創造的な答えに辿り着くことになるのです。

問題定義が正しく行われれば、その後の発想や解決手法に一貫性が生まれ、実行に繋がっていきます。従ってデザイン思考のステップ2「問題定義」は、全体のメソッドの中でも極めて重要なステージであり、この問題の捉え方ひとつでプロジェクトの成否が左右されると言っても過言ではありません。

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デザイン思考5  STEP1「共感」

【デザイン思考の出発点】
デザイン思考における出発点は顧客です。顧客の欲求や真に解決したい問題などを理解する所からすべてが始まります。

具体的な方法は以下の3つです。
・観察する
・関わる
・没頭する

IDEO創業者の弟トム・ケリーが2002年に発行し、デザイン思考の元となった名著「発想する会社!」の中で代表的なエピソードが語られています。IDEOが独創的な会社であるという噂を聞きつけたテレビ局が出した「3日間でスーパーマーケットのカートをイノベーションしてください」という無理難題に対して立ち向かうドキュメンタリーのお話しです。

この中でチームメンバーが最初に行ったのがフィールドワークです。実際にウォルマートに行き、顧客の動きをつぶさに観察し、買い物中の顧客にヒヤリングし、自らが様々なシチュエーションで買い物に没頭することで現状を徹底的に理解し顧客に共感するのです。

ここでは決して想像や予想、判断をしてはいけません。ただ共感し、より多くの意見、体験を得る事に集中することが重要です。

【本人も気づいていない驚くべき事実】
このステップでもっとも重要な点は、「本人も気づいていない驚くべき事実や、外からは解らない潜在的な心の動き」を抽出することです。

スティーブジョブズが「人は実際に形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのかわかっていない」と言っていますが、そこを解き明かし、最適なソリューション(問題解決手法)を導き出すことがイノベーションに繋がるのです。

この共感のステップでは、イノベーションの種となる隠された欲求、より良い解決策へのヒントとなる情報をいかに引き出すかが重要です。

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デザイン思考4 人間中心デザイン

【すべては顧客から始まる】
IDEO社の現CEOのティム・ブラウンは、デザイン思考についてこう述べています。

「デザインシンキングとは、イノベーションを生み出す、人を中核としたアプローチです。人々のニーズ、テクノロジーの可能性、ビジネスとしての成功をひとつに組み合わせるデザイナーの手法から導き出されたものです。」(引用元:https://www.ideo.com/jp/approach

デザイン思考では、
・人々のニーズ(有用性)
・テクノロジーの可能性(技術的実現性)
・ビジネスとしての成功(経済的持続性)
という3つの要素を一つにつなげることに主眼が置かれます。

得てして企業は、自社の築いてきた技術的優位性やノウハウを元にビジネスを展開しようとします。同時に、利益至上主義に陥り小さなニーズを置き去りにし、合理性のみで意思決定してしまいがちです。

ピータードラッカーは、「顧客の欲しいものを想像してはならない。我々は何を売りたいかではなく、顧客は何を買いたいかを考えなければならない。」と語っている通り、ビジネスの出発点は顧客でなければなりません。そして、より具体的に顧客の欲しいものにアプローチしなければいけないのです。決して、自社の技術や経済原理からスタートしてはいけないのです。

デザイン思考では、この人々のニーズ、欲求の理解からすべてをスタートします。徹底的に顧客に寄り添い、その問題の本質を掴んだうえでその解決の手段として技術面を含めた実現可能性と収益による持続性を検討しなければなりません。

こうしたアプローチを「人間中心デザイン(Human Centered Design)」と呼びます。

【人間中心デザインプロセス】
デザイン思考における人間中心デザインプロセスには、基本となる3つのステップが存在します。IDEO社では、以下のように説明しています。(引用:https://www.ideo.com/jp/approach)。

・インスピレーション:解決のヒント、課題、きっかけ、気づき
・アイディエーション:アイデアを生み出し発展させテストする
・インプリメーション:世の中に出し浸透させる
大きくはこのステップを行ったり来たりしながらイノベーションを生み出していきます。

また、それを更に細分化したのがスタンフォード大学d.schoolで行われている5つのステップです。
・共感:観察、関わり、没頭を繰り返し自らが体感
・問題定義:問題の枠組みを捉えなおし焦点を絞る
・創造:問題解決の手法を大量に生み出す
・プロトタイプ:試作によるアイデアの素早い具現化
・テスト:失敗による定義、解決手法の検証と改善

人間中心デザインでは、共感やテストのステップ通して顧客と一緒に体験し考えることが重要となってきます。また、他のメソッドと異なるのは、直線的にこの工程を進むのではなく、非連続的に反復する点です。共感からいきなりプロトタイプに辿り着くこともあれば、テストの結果から問題定義をやり直すことだってありえます。デザイン思考における基本的なフレームワークは、時系列に順序立てて進まないのが大きな特徴なのです。

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デザイン思考3 なぜ今デザイン思考なのか?

【デザイン思考は当たり前の行為だった】
遠い昔、世の中に何もなかった時代、人は自らの欲求を満たすために様々なモノを創造してきました。自然界のものを加工したり、くっ付けたり離したりしながら、人間にしか生み出せない何かを創造し続けてきたのです。そうしたイノベーションの積み重ねが現在の世界を創りあげています。近代の日本では、SONY、ホンダ、スバル、東芝、松下電器など、高い志を持った企業が様々なイノベーションを起こし、急激な高度成長期を迎えるまでになりました。

こうした時代を創り上げてきた過程では、無いもの、出来ないことをどうすれば出来るようになるかという考え方が日常だったのではないでしょうか?それに応えてきた企業が今日の大企業に成長しているのです。

【効率化の時代は限界へ】
そうして世の中が成熟し、多くの欲求が簡単に満たされる時代に入ってくると、企業は創造性のある仕事を捨て確実性を重視した効率化の戦い、つまりはコスト競争に邁進することになりました。少ない人数で多くのモノを短時間でいかに安く作るか?この事により製造技術のイノベーションは進みましたが、それもそろそろ限界を迎えています。大量生産の時代では、特殊な技術、難解な加工は敬遠され、誰でも作れる部品供給が求められるからです。こうして創造的だった企業は普通の企業に変容してしまいました。

【時代の要請】
日本企業が独創性を失いつつある中、急激な成長を遂げたのがインターネットです。あらゆる業種業態、国や人種を横断して発達したインターネットはこれまでの既成概念を大きく変え、多くの企業はその変化に飲み込まれ淘汰されていきました。

情報が行き交うスピードが格段に速くなると、プロダクト・ライフサイクルはどんどん短くなり、ひとつのヒット商品で一時代を築くような芸当は通じなくなりました。ひとつの主力商品の機能を改善していくだけでは、生き延びることができなくなり、顧客が持つ様々な要望、特に「意味的(情緒的)価値」が求められるようになったのです。

【意味的(情緒的)価値とは】
意味的価値とは、製品が持つ基本的な機能に加えて付加される顧客価値を指します。これにはコトラーの「マーケティングの8P」(ブログ参照)が解りやすいです。コトラーは、顧客のニーズは時代によって拡がっており、それらを8つのPによって表しました。意味的価値について、近年もっとも代表的なものが言わずと知れたiPhoneです。スティーブジョブズが「電話を再発明した」といったこの端末は、iPod、携帯電話、ネット端末という3つの機能を、携帯できるサイズとしてひとつにまとめたものです。この端末が様々な意味的価値を生み出し続けていることは説明の必要もないでしょう。

【意味的価値とデザイン思考】
ここで重要なのは、機能的価値の延長線上に意味的価値は存在しないという点です。もっと言えば、意味的価値を重視することで機能的価値自体も変化してしまう時代だということです。例えば、任天堂のWiiは、「体験」という意味的価値を重視するために、当時ゲームメーカーが競い合っていた基本性能や処理能力、ハイクオリティなゲームソフトという機能的価値を捨てました。その代わり、より複数プレイに適した端末へと機能的価値は変化を遂げたのです。こうした発想は「顧客は何のためにゲームをするのか?」という原点の問いに立ち返らなければ生まれない発想です。

ここに、なぜ今デザイン思考が求められるのか?についての大きなヒントがあります。機能的価値の競争から脱局するためには、これまでの既成概念や常識を振り返り、本質的な顧客のニーズに立ち戻らなければいけないのです。

デザイン思考とは、一をゼロに戻し、再び一を生み出すために求められているのです。

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デザイン思考2 デザイン思考とビジネス

【ビジネスとしてのデザイン思考】
ビジネスにおけるデザイン思考の役割が「イノベーション」であることに異論をはさむ必要はないでしょう。そこでイノベーションとは何かについて触れておきます。世界的社会生態学者のピータードラッカーは、企業の目的は「顧客の創造と維持」であり、それを実現するために必要な2つの機能は「マーケティング」と「イノベーション」であると説いています。そしてイノベーションとは、「新しい価値を創造し、顧客、または社会に提供する事」と定義しています。

では、どのような企業がイノベーションを起こすのか?ピータードラッカーはこう続けます。

「イノベーションに優れた企業は、イノベーションのための活動を厳しく管理する。創造性などという言葉を口にすることはない。創造性とは、イノベーションを行なわなければならない企業が使う中身のない言葉である。」

これはまさに「イノベーションの日常化」に他なりません。必要なのはそれを許容する組織であり、環境であり、風土であり、評価です。それらを厳しく管理していれば、イノベーションが無意識のうちに繰り返される企業になりえるというのです。

「新しい価値を創造し、顧客、または社会に提供する活動を日常化すること」

これがビジネスにおけるデザイン思考の明確な目的なのです。

【なぜ「デザイン」思考なのか?】
デザイン思考の本質は「イノベーションの日常化」であり、その目的は、「新しい価値を創造し、顧客、または社会に提供する活動を日常化すること」であることは、前項で述べた通りです。

では、デザイン思考という概念になぜ「デザイン」という言葉が用いられたのでしょうか?本質や目的からすれば「イノベーション思考」がもっとも適したタイトルであるはずです。ここであえて「デザイン」という言葉を用いたのには明確な理由があります。

そもそもこの言葉を提唱したIDEO(アイディオ)は世界的なデザイン会社であり、デザイナーによる発想力や創造性を価値としています。そして、様々なものを生み出すそのクリエイティブワークをつぶさに観察した結果、デザイナー特有の思考プロセスがあることに気づき、それを体系化したのが「デザイン思考」なのです。

そういう意味で「デザイン思考」は単なる考え方ではなく、明確なメソッドであることが解ります。トム・ケリーがその著書で「デザイン思考とは、イノベーションを日常的に行うための方法論のひとつだ。」と述べているのには、「誰でも手にすることができる」という明確なメッセージがあるのです。

間違ってはいけないのは、デザイナー特有のプロセスだからといって「デザイン思考=右脳的な直感や才能ではない」という点です。デザイン思考では、あくまでも「分析的な考え」と「直観的な考え」をバランスよくMIXさせることが求められており、個人の才能やスキルではなく、チームとしての創造性が大きなテーマとなっています。

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